さいごの夢まで、よろこんで。

今度は翔太が投げる番だ。

自分とどこがそんなに違うのか、じーっと観察する。
私のよりもずっと重たそうなボールを抱えて、前を見据えた次の瞬間、翔太の手から離れていったボールは、静かに流れるようにレーンを滑っていく。
倒されるために綺麗に並んだピンが、捕らえられて宙に舞う。

「す、すごいすごいすごい!」
「翔太様と呼べ」
「絶対やだ!」

まぶしい。かっこいい。悔しいけど。

「私も一回ぐらいストライク取りたい!」

イスから立ち上がって、ボールのもとへ。翔太の真似して、置いてあるタオルでボールを拭いてみた。なにが変わるのかは、よくわからないけど。

「沙耶」
「ん?」

さあ投げようと意気込んだところに、翔太から待ったがかかった。

「あと一歩、右にずれて立て」
「……え」
「ボールはレーンに置くように投げろ。投げ終わったあとの腕はピンの方向に向くように」
「え?え?」

どうやらやっとアドバイスをくれる気になったらしい。
言われた通りに右にずれて立って、ボールの投げ方、腕の方向に意識をおいてみる。
さっき見た翔太の投げかたもちょっと思い浮かべながら、投げた。
そしたら、気持ちいい音が響いた。

「……!………!!」
「わかった、わかったから声に出して喜べ」

見事ストライク。
慌てて翔太のもとへ駆け寄って、ハイタッチ。

馬鹿みたいに喜ぶ私の隣で、翔太も満足気な顔をしてくれた。

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