さいごの夢まで、よろこんで。
目当ての場所に着く頃には、外はすっかり暗くなってしまった。
下校時間を過ぎたからか、生徒が残っている様子はない。正門から入って職員室に行くと、私達のことを覚えてる先生がいて、校舎に入るのを許可してくれた。
「こんなとこに来たかったのか?」
「懐かしいでしょ?卒業以来だよね」
ここは私達が通っていた中学校。
私と翔太が仲良くなったきっかけであり、今の関係を作ってくれた場所だ。
下駄箱も、グラウンドも、掃除道具入れも、全部見慣れているはずなのに、どれも初めてみるもののように思えた。
それだけ、時が進んだってことなんだろう。
「一年のとき、何組だったか覚えてる?」
「一組だろ?お前が窓際の席に座ってたのも覚えてる」
「わ、そうだった!翔太は、後ろのほうでよく寝てたよね」
「前の席の奴がでかかったからな、すっぽり隠れてたわ」
迷わずに一年一組の教室までたどり着いた。
掃除のあとだからか、綺麗に並べられた机とイスに、なにも書かれてない黒板。
机の中をのぞくと、空っぽの子もいれば、プリントがぐちゃぐちゃに入ってる子もいる。
懐かしくて、胸がじんわりとした。
「あ、俺の席だったとこの生徒、机に落書きしまくってやがる」
「いたねそんな人。なんて書いてあるの?」
「あーっと、……”数学意味不明”」
「その子絶対数学苦手だね」
イスに座ってみると、少し低く感じた。あの頃はそんなこと思わずに毎日座ってたのに。
「私も数学は苦手だったなー」
「俺は数学の近藤の似顔絵をよく描いてた」
そう言って黒板の前まで歩いてきた翔太は、白いチョークで近藤先生の顔を描き始めた。