さいごの夢まで、よろこんで。
「はい!歌います、”旅立ちの日に”」
ついには卒業式で歌った曲まで歌い出した。
「ゆうきをつばさにこーめてー、きぼうのかぜにのりー」
「いいぞー沙耶、もっとやれー」
「このひろいおーおーぞらにー」
「ぎゃはは!お前、それ、合唱部の尾崎のマネ!」
楽しい。今までで一番、楽しかった。
二人して思いっきり声を出しながら笑った。
「はいはい、俺も歌う。”いい日旅立ち”」
「なんで!?」
「いーいひー、たびーだちー」
「あはははは!翔太、顔!顔がやばい!」
こんなに笑ったのはいつぶりだろう。可笑しくて可笑しくて、時間を忘れて、ひたすら笑い転げた。
まるで自分達は今、世界で一番幸せだというように。
「あっはは!はーもう、笑いすぎて涙でそう!」
「……でてるけど」
「え?」
そう言った瞬間、自分の目からぼたぼたとなにかが零れ落ちた。
あ、と思ったときにはもう遅かった。
大量の涙が、次から次へと溢れ出して、落ちていった。
信じられなかった。とめようと思っても、一向にとまる気配はない。
翔太がぎょっとしてるのがわかった。わかってても、どうにも出来なかった。頬を伝って顎先から、教室の床に降り続けた。
「あ、あれ?おかしいな、どうして」
無理矢理、ひきつるように絞り出した声は、隠しようがないほど震えてた。
「どうして………っ」
こんなつもりじゃなかったのに。
これじゃあ、笑顔でバイバイって言えないよ。翔太といるとすごく楽しくて幸せだから、これから先もずっと一緒だよって、伝えられないよ。