さいごの夢まで、よろこんで。
「沙耶、どうした?」
ひどく戸惑ったような翔太の声。
当たり前だ、爆笑してたやつが急に洪水みたいに泣き出して、本人も唖然としてるなんて。
「おい、沙耶」
一歩、翔太がこっちに向かって足を踏み出したのを感じ取って、とっさに一歩下がった。この距離は縮めたらいけない、なぜかそう思った。
そんな私をどう思っただろう。水滴が落ちていく地面ばっかり見てるから、どんな顔をしてるか確かめられない。
胸が痛い。苦しい。
「……翔太」
「何があったんだよ?」
「翔太、」
なにを言うつもりだろう。
なにを言ってももう、きっと、だめだ。
「……写真、とろう」
鞄からいつも持ち歩いてるカメラを出して、翔太をその中に映し出した。
「…意味わかんねえ、沙耶、なんで言ってくれないんだよ、なあ」
「笑ってよ、翔太」
「笑ってねえのはお前だろうが!」
声を荒げた翔太に向けて、シャッターを切れたのかどうかさえ、もうわからなかった。
叫び声を背に、翔太を残して、教室を飛び出してしまったから。
歩き慣れたはずの、だけど知らない場所のような廊下を走る。
とまらない。涙も、溢れ出てしまった気持ちも、想いも、なにもかも。
今日は二人が出会ってから、一番の楽しい日で、幸せな日で、これ以上ないってほど笑って、またねって言って、それから、前みたいにくっついて写真を。
痛い。
知らないうちに、気付かないうちに、自分の中でこんなにも大きくなった”なにか”が、主張するように暴れ出して訴えかけてくるみたいに。
だけどこれでもう、二度と後戻り出来ない状況になったことを、悟った。
好きになって、ごめんね。