さいごの夢まで、よろこんで。
小さくなって、ただ息だけをした。


携帯の着信音で目が覚めた。

うっすらと目を開けて、視線を動かす。
カーテンの外が明るいから、もう朝なんだろう。

「うー…」

上半身を起こして、体を伸ばす。
まぶたが重いのは、寝起きだからっていう理由だけじゃない。

胸の痛みは、まだ消えないままだった。



「おはよう…」
「おはよう沙耶。朝ごはん食べる?」
「うん」

リビングに行くと、お母さんがソファーに座ってコーヒーを飲んでいた。
テーブルに携帯を置いて、顔を洗うために洗面所へと向かう。鏡にうつった自分の顔を見て、ため息が出た。
冷たい水でバシャバシャと顔を洗っても、すっきりしない。夜は眠りが浅くて何回も目が覚めたし、寝不足なのかもしれない。

着替えてリビングに戻り、テーブルについた。

「沙耶の携帯なってたわよ」
「え…、あ、そう」

見ればランプがチカチカと光っている。
マナーモードに切り替えて、着信の確認もせずに朝食を食べ始めた。



———もう、会わないって決めた。

あの日から、数日たった今もずっと、毎日携帯には電話とメールがいくつも届く。相手は全部同じ。

最初の二日間は、届いたメールを全部読んでいた。内容はどれも同じようなもので、「連絡しろ」とか「何があったんだ」とか「訳わかんねー」とか。
今ではもう、文字を目で辿ることが辛くて、一通も読まなくなってしまった。
未開封のメールと、留守電ばかりが溜まっていくのを、ただぼんやりと認識してるだけ。

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