さいごの夢まで、よろこんで。
夕方になって、家のインターホンが鳴った。
そのすぐ後に、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「沙耶、翔太くん来てくれたわよ」
「えっ…」
翔太が来てる。
そう思った途端に、怖くなった。
電話もメールも無視し続けて、文句でも言いに来たのかもしれない。
それだけならまだいい。
私のこと、嫌いになったのかもしれない。
当然だ、昔から散々わがまま言って振り回してきて、ここまで付き合わせといて手のひらを返したように音信不通になって。
嫌われて当然だって、自分でもわかるのに、それがすごく怖い。
「下で待ってくれてるけど。おりてこられる?」
「だ、だめ、会わない。いないって言って」
そう言って、ベッドの上で頭から布団を被った。
真っ暗な中でさらにギュッとかたく目をつぶって、まるでなにもかもを遮断するかのように。
光も、音も、感覚も忘れて、ただただ小さく小さくなって、息だけをした。
どれくらいそうしてただろう。
五分か、十分か、時間もわからなくなったとき。
「……さや?」
ドアの向こうから、慣れ親しんだ声が聞こえた。
その瞬間、心臓がドクンと嫌な音をたてる。かたく閉じてたはずの目が勝手に開いて、布団でふさいでいるはずの耳を無意識にすませた。
「沙耶、いるんだろ?」
いない、いないよ。
心の中で返事をした。
「……俺に会いたくないなら会わなくてもいいから。話だけでも聞いてくれよ」
翔太の声、今まで聞いたどんな声とも違った。布団越しだからとか、そういうのじゃなくて、確かに翔太の声なのに、まるで別人みたいだった。
「考えたんだけどさ、全然わからなくて。俺、お前になんかした?傷付けた?」