さいごの夢まで、よろこんで。
「気持ちは伝えなくても、せめて最後まで一緒に過ごしたら、そのほうが幸せなんじゃないの?離れたら辛くなくなるなんて、そんな馬鹿なことないよ!離れたほうが辛いに決まってるじゃない!」
訳がわからない、って、夏子は泣いたり怒ったり。ありがとう、それ全部、私のためって思ってもいいよね。
「……そうだよ、離れたほうが辛いんだよ。そんなの知ってるよ。だけどね、今離れなくたって、近いうちに嫌でも会えなくなるんだよ」
我ながら、ひどい。
なにもかも諦めたようなこんな声。
だからなのか、夏子はハッとした表情になった。
「しかもね、それがいつくるかわからないんだよ。突然かもしれない。だったら今でいいよ。先延ばしにすればするほど、離れたときのショックは絶対に大きい。……それにね」
自分の体に、視線を落とした。
「一緒にいるときは楽しくしたいとか、笑い合ってたいとか。そんなことする元気も、もうなくなっちゃったんだよね」
私は、自分でも驚くほど自然に、夏子に笑ってみせた。
そうすれば納得してくれると思ったのに、おかしいな、逆効果だったみたい。夏子はボロボロと泣きだしてしまった。
「なんで夏子が泣くの、もう」
「うっ……どうして沙耶は泣かないのよ。私の、前じゃ泣けない?」
「まさか。もう、枯れちゃっただけだよ」
声を出して泣き始めてしまった夏子が落ち着くまで、ずっと手をにぎっていた。