さいごの夢まで、よろこんで。
帰り際、夏子は上品なショルダーバッグから封筒を取り出した。
「忘れるところだった。これ頼まれてたやつね。安心して。中身は見てないから」
「ありがとう、助かる。無理言ってごめんね」
「これくらい、いくらでも頼んでよ。じゃあね、また会いにくるから」
「うん。またね、ばいばい」
夏子を見送って、中身を確認すると、数枚の写真だった。
家族にはあんまり見られたくない写真の現像を、夏子に頼んでやってきてもらったのだ。
今の私には、これを見ることですら勇気がいる。
というか、よく撮ったなと思う。形として残したほうがいいなんて、平然と言ってた自分が信じられない。
こんなに綺麗な思い出として残してしまっては、今を憎んでしまいそうな気がする。
一枚一枚、丁寧に封筒から出して、机の上に並べた。
一枚目は、水族館でのツーショット。
翔太に肩を抱かれて、頭をのせられている。思ってたよりもずっと近い距離感に、思わず恥ずかしくなった。
だけど写真の中の翔太は、もっと照れたように難しい顔をしていた。
二枚目は、なぜかイルカが宙を舞っている。
ああそうだ、イルカショーに感動して撮ったんだ。すごい迫力だった。
名残惜しくて席から立てずにいたら、また来たらいいだけだろって、翔太言ってたな。
三枚目は、家の近くの道路だった。
たしか、映画館では撮れないからってここで撮ったんだっけ。
私がふいうちでくっついたから、翔太はびっくりした顔をしてる。これも実は結構勇気出したんだよね。