さいごの夢まで、よろこんで。
知ってるようで、全然知らない。

翔太からの連絡が途絶えてから、私の生活は今まで以上にからっぽだった。
好きなテレビを見ても、好きなアーティストの曲を聴いても、好きなものを食べたって、少し気を抜けば浮かんでくるのは、写真の中の翔太の顔。

きっともう本格的に呆れられたんだ。嫌われたなんて問題じゃない、愛想をつかされて、見放されたんだ。鳴らない携帯が、それを証明してる。

これは私が仕向けたこと。望んでいたこと。納得してるし、理解してる。
だけどいくらそう自分に言い聞かせたって、毎日毎日張り裂けそうな気持ちだった。
頭で考えたことと、心で思うことって、ぜんぜんイコールにならない。


そんな抜け殻みたいな生活をしてたら、心配されるのは当然で。
大丈夫だって虚勢を張ることにも限界を覚えてきたころだった。

「……いいにおい。晩ごはん何?」
「今日はね、沙耶の好きなもの作ったから」

そう言って嬉しそうに晩ごはんの支度をするお母さんを、テーブルに肘をついて眺めていた。その顔を見て、私も嬉しくなってちょっと笑った。

「もう出来るから、食器だしてくれる?」
「はいはーい」

立ち上がって、キッチンの食器棚に手を伸ばした。
見慣れたお茶碗を持って、一歩踏み出したときだった。
あ、やばい。咄嗟にそう感じた。だけど次の瞬間にはもう、目の前が真っ暗になった。

食器が割れた耳障りな音と、誰かの叫び声が聞こえたような気がした。

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