さいごの夢まで、よろこんで。
目が覚めると、白かった。
ああ、これは病室の天井だ。やけに冷静にそう思った。
ずいぶん長いあいだ眠っていたような気がする。
独特のツンとする匂いと、無機質な白い部屋。右を向くと、窓際に花が飾ってあった。綺麗なピンク。なんて名前の花だろう。
物音がして、左を向くと、お母さんがイスから立ち上がってこっちを見ていた。
「沙耶……?」
「お……かあ、さ」
「沙耶!」
ベッドに駆け寄ってきて、左手をぎゅっと包まれた。あの、余命を告げられたときぶりに、お母さんの涙を見た。
ずっとそばについててくれたんだろうな。目の下にクマが出来てる。
「よかった……、よかった!」
怖い思いさせちゃったかな。ごめんね、こんな親不孝者で。
でもありがとう。きっと、今のそのお母さんの顔、一生忘れないよ。
左手の温もりを感じながら、もう大丈夫だよって安心させてあげたいと思ったけど、無責任なことは言っちゃいけない気がしたから、なにも言えなかった。
指に落ちてくる涙は、優しい温度だった。