さいごの夢まで、よろこんで。

そのあと、ナースコールで駆けつけた看護師さんに診察をされ、担当医の先生がやってきた。先生の顔があんまりいいものじゃなかったから、私の状況はよくないものなんだろうなってわかった。

「もしかしたらもう、家には帰れないかもしれません」

そんな言葉も、自分でも驚くほど素直に受け入れられた。
家に帰ったって、したいと思えることはもうなにも無かった。それほど、ここ最近の自分はからっぽだったから。しいて言えば、伸ばしっぱなしの前髪が目にかかって、ちょっと鬱陶しいことぐらい。

だけど周囲はそうはいかなかった。

入院することになってから最初の数日間は、わりとたくさんの人がお見舞いに来て、励ましの言葉とか、無茶な願望とかを言い残していった。
その中には、ほとんど話したことがない従兄弟とか、会ったこともない親戚とかもいて、まったく知らないに等しい私のために泣いていた。
そのことが、事の重大さを物語っていて、自分はとんでもない病気なんだなあとか、たしかにまだ若い分類に入るもんなあとか、他人事のように解釈した。

夏子なんか、彼氏とのデートをすっぽかしてお見舞いに来たって言ってた。
「彼氏に恨まれるの私なんだからやめてよ」って言ったら、「彼氏より沙耶のほうが大事!」だって。嬉しすぎる。

夜、ようやく一人になって思うんだ。
私の人生、そんなに悪くなかったなあ、って。
友達は少なくて、人見知りで、ワイワイ騒いだ学生時代なんかじゃなかったけど、あの頃の私は、たった一人がそばにいてくれればそれだけでよかったから。
スッカスカなようで、ギッシリ詰まった人生だったよ。本当に。

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