さいごの夢まで、よろこんで。
「……現実逃避するような顔してるんで、信じてもらうためにこれだけ言っておきます」
ポカンと、赤城くんの顔を見た。眉間にしわを寄せて、なにかを必死に耐えるような顔つきだ。どうしたのかなってぼんやり思った。
これ、もしかして夢の中なのかな。
「これは翔太本人から聞いた話です。……あなたと出かけるとき、翔太はよくあなたの後ろを歩くんだと言ってました」
あ、そうそう。まちがいないよ。
翔太は、私が迷子になられたら困るからって、よく後ろを歩いてた。
失礼だよね、いくら私でも、さすがにそれはないって。子供扱いしすぎだよ。
「自分が元気なうちに、たくさん一緒に歩けるうちに、少しでも多く、あなたの姿を目に焼き付けたいから……だそうですよ」
パタン、と、病室のドアが閉まる音が聞こえた。赤城くんが出て行ったらしい。
なんだか体の感覚全部、どっかいったみたいにふわふわしてる。呼吸って、どうやってするんだったっけ。
なんで私、今こんなとこにいるんだろう。あ、そうか、もう家には帰れないんだっけ。あとどれぐらいもつのかな、私。
じゃあ、翔太は。
翔太は、今どこにいるんだろう。家にはいないのかな。あとどれぐらい、で。
「………だれか、うそだっていってよ」
うそだよね、うそだよ。おかしいよこんなの。こんな悲しいことってないよ。
なんで?翔太。
これからあなたは、私のことなんかきれいさっぱり忘れて、違う誰かと、幸せな未来をつくっていくんじゃないの?こんなことまで、私に付き合ってくれなくてもいいんだよ?
「…馬鹿。ばかやろう、うそだって、いってよ。ねえ翔太、」
会いたいよ。
この日の夜は、はじめて声を出して、泣いた。