さいごの夢まで、よろこんで。


その日から、何度も何度も頭を下げて頼み込んだ。
お願いだから、少しでいいから時間を下さいって。
やり残したことが見つかったから、最後にどうしてもやりたいことだから、お願いだから外に出してくれって。
だけどもう、先生も看護師さんも、赤城くんも、それは出来ないって言って許してくれなかった。

毎日毎日、縋り付くように頼み込んだ。残された時間は本当に少なかったから。急がないと間に合わない。
お母さんには、「ふざけたこと言わないで」、「自分の体のことを一番に考えて」って、逆にお願いされてしまった。

あまりにも必死な私の姿を見せられたもんだから、赤城くんがこっそり詳しいことを教えてくれた。

「翔太は今、入院してます。どこの病院かは言えません。あなたが夜中に抜け出したりしたら困りますから。…だけど多分、あなたの予想通りの場所だと思いますよ」

そっか、翔太もこの病院にいるんだ。
きっと直線距離にしたら、二人は何十メートルぐらいしか離れてないんじゃないのかな。
それなのに、こんなに遠い。

「翔太に会わせて」
「無理に決まってるでしょう。自分の状況わかってるんですか?それに、あなたがよくても翔太は……」

そこまで言って口をつぐんでしまった赤城くんを見て、翔太は今、私よりも大変な状況なのだろうと悟った。
考えてみれば、翔太からの連絡が途絶えたのはもう随分前だ。

すぐ近くにいるのに。
二人のあいだにはいくつもいくつも、障害物が転がってる。それを乗り越えるだけの力が、お互いにもう残ってない。
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