さいごの夢まで、よろこんで。
「ここは……?」
「ここを抜ければ、病院の屋上があるんです」
へえ、屋上とかあるんだ。
人気のない通路を、二人で進む。外の空気へと続くドアの向こうを思うと、ちょっとドキドキした。
ギーッと音を立てて、ドアが開く。
その音で、あんまり使われてないのかなって思った。
「結構広いね、殺風景だけど」
「屋上なんてそんなものです」
見渡すと、何もない場所に白いベンチが三脚散らばって置いてあるくらいで、寂しいものだった。
そのおかげで風がよく通り抜けて、気持ちいい。
ふと、違和感を感じて目をこらすと、そのうちの一つのベンチに、誰かが座っているのに気が付いた。
「行きましょうか」
赤城くんに手を引かれながら、ゆっくりゆっくり、そのベンチへと近付く。
身体中の血液が、一斉に暴れ出して、グワッと体温が上がった気がした。
赤城くんはその人の隣に私を座らせて、満足そうに笑った。
「少ししたらまた迎えに来ます。それまでどうぞ、ごゆっくり」
そう言って、屋上から出て行った。そのときにまた、ドアが古めかしい音を立てていた。
隣に座る人のほうを見ると、私の顔を見て、優しく笑っていた。
「久しぶり、沙耶」
「………翔太?」
その瞬間、他の一切のものが視界から消え去ったような、この世からなくなったような感覚に陥った。
障害だらけだと思ってた二人のあいだには、今はただ風が吹くだけだ。