さいごの夢まで、よろこんで。
せっかくなので、イルカショーを見てから帰ることにした。
「ジャンプした!すごい!順番守ってるよ!」
「お前より頭いいかもな」
さりげなく失礼だ。
前の方に座っている人達は、水しぶきがかかってびしょ濡れになっていた。そうなることが予測出来るから後ろの方に座ろう、と言ってきたのは隣の男。
だけど後ろの方で見ても圧巻のパフォーマンスに、思わず身を乗り出して手を叩く。
「あれ、どうやって教えるのかな」
「さあ。ひたすら根気よく、とか」
クライマックスの、大技を連発するところでは、すこし、いやかなり感動してしまった。
ふと、生まれ変わるならイルカはどうだろうなんて、今考えたって仕方ないことが頭をよぎった。
仲間達と、広大な海を自由に泳ぎ回るのは、きっとすごく気持ちがいいんだろうな。
鞄からカメラを取り出して、イルカが宙に舞う姿に向けてシャッターを切った。
「…終わっちゃったね」
「だな。帰るか」
「うん」
客席からどんどん人が消えていく様子を、ぼんやりと眺めた。
そんな私を見て、翔太は私の頭に手を置いて、数回ポンポンとした。
「そんな寂しそうな顔しなくても、また来たらいいだけの話だろ?」
「え、あ……うん、そうだよね」
また来たら、また来れたら。
もしも、その日が来るなら、また翔太と一緒がいいな。
そう思って、その気持ちを大事に大事に、胸の中だけにしまった。