にゃおん、と鳴いてみよう
『ゴハン屋敷』にはもう、ママはいない。
じゃあ、どこにいるの?
あたし、ママのところに帰りたいんだけど、どこに行けばいいの?
「に……、にゃおん、にゃおん、にゃおん!」
問いかけても答えてくれる人は誰も居なくって、何だか怖くなって、いっぱい鳴いた。
「うるさいなぁ」
通りすがりのニンゲンが、嫌なものでも見るみたいにあたしを見た。
そうしたら、ヒュっと声が出なくなっちゃって、あたしは仕方なく、また歩きだす。
でも何だか、もう面倒くさい。
だって何のために歩いてるの?
ママに会いたくて頑張ったのに。
もう、どこを探せばいいのか分からない。
小さい道からから大きな道に出た。
ピカピカの車がまたいっぱい走ってる。
「きゃっ、猫。ヤダぁ、黒い。しっしっ」
若い女の人が、あたしを見て嫌な顔をする。
なによ。あたしの黒は、ママの好きな黒よ?
とってもきれいっていつも言ってくれるんだから。
そう思いながらも、ニンゲンが怖いから逃げる。
しばらく走って、息を整えて顔をあげると、ネコの姿が見えてビックリした。
でも違う。これ、ガラスだ。
月明かりや車のピカピカで、あたしの姿がそこにうつってるんだ。
だけど、そこにうつる自分の姿に、ビックリした。
何これ。
これ、あたしなの?
汚れて、痩せて、ヒドイ顔。
改めて自分の前足を見ると、ママが舐めてくれてツヤツヤだった黒い毛は今は埃にまみれて変な色をしていた。
もう全然、キレイじゃない。