にゃおん、と鳴いてみよう
その後、パパとママは柵越しに恋を温め合った。
抜け出せないような柵じゃなかったんだけど、パパのご主人様は心配性で、すぐにパパを探し回るから遠くに行けないらしかった。
でも、春のある日。
ママはどうしてもお気に入りの桜を見せたくて、パパを誘い出した。
パパはその日、ママといた。
桜の下で、いっぱい大好きって鳴いた。
だけど、帰る途中でパパを探しに来たニンゲンに見つかって、ママは追い払われてしまった。
それからは、お屋敷に行ってもパパには会えなかったんだって。
だけど、ママには残されたものがあった。
それが、あたしたち。
ママがあたしのこの黒い毛を愛おしそうに見るのは、きっとまだパパの事が好きだからなんだろうって思う。
月の出る夜は、よくママと『ゴハン屋敷』の屋根にのぼる。
「にゃーおん」
ママが奏でる声は、大好きようっていう思いに溢れてる。
パパの為に鳴いてるのかな。
パパには届いてるのかな。
ママ、あたしはママが大好き。
パパにもう二度と会えなくても、あたしは傍にいるからね。
だから、泣かないで。あたしの声、きいててね。
「にゃぁおん」
あたしも、大好きようって鳴いてるのよ。
分かる? ママが大好きよ。
ママは微笑んで、あたしの毛並みをぺろりと舐めた。
ツヤツヤの黒い毛と甘えるような鳴き声は、あたしの自慢。
ママが褒めてくれる、あたしの大切なもの。
ずっと大事にするからね、って心の奥で誓った。