にゃおん、と鳴いてみよう
目の前の道路は、ピカピカした光がすごい速さで通り過ぎる。
夜の街ってこんななの?
今まで来た事がなかったから、初めて見る光景にあたしは目を何度もしばたいた。
夜はいつも、ママの傍で眠っていた。
ママの隣はお姉ちゃんたちと取り合いになるんだけど、こういう時は小さいあたしの方が有利なの。
最後にこっそり隙間に入り込んで、ママの隣をゲットする。ふわふわしていてあったかくて大好きだった。
ああ、早く帰りたいよう。
あのぬくもりに会いたくて、あたしは一生懸命歩いた。
どっちに行けば帰るのかはわからないままだったけど、とにかく歩いた。
でも、パンを口にくわえたまま歩くのって、疲れるのね。
顎が痛くなるたび、足元にパンを置いて、息をついて空を見上げた。
何度も休みながら、お月さまと見つめあう。
ねぇ。お月さま。
ママはどこにいるの。
ママの姿、思い出すと切なくなる。
「にゃぁおん」
その想いのまま、鳴いた。
聞こえる? ママ。
チビだよ。ここにいるよ。ママが大好きなチビだよ。
だけど鳴き声は、すぐ脇を通り過ぎる車がつくる風で流れて行っちゃって、きっとお空までは届いてない。
ママに会いたいよ。
頑張ったら、会えるかな。
だったらあたし、頑張るから。
しんどくっても、泣かないから。
だからママに、会わせてね?
「にゃおん」
一声気合いを入れて、またパンをくわえて歩きだした。
もう真っ暗で、足も痛かったけど。
どうしてもママの傍に帰りたかったから。