廃想集 『カワセミ啼話』
夜が好きなの。
月明かりも星屑もないくらい深い夜が。
闇が、私の闇を少しの間だけ見えなくさせてくれるから。
要らぬものばかり見える目も、その役目を忘れてくれるから。
耳だけを澄ませて、
アナタの声が聴こえれば、それでいい。
嗅覚だけを研ぎ澄ませて、
アナタの甘い匂いに
つられるだけでもいい。
この手に伝わるぬくもりを
掻き集めるだけでも
構わないから。
眠れなくてもいいの。
薬で創った偽物の眠りなど意味はないから。
眠らなくてもいいの。
アナタを感じることが出来るなら、眠りなど引き換えにもならない。
安らぎも癒しも引き換えになるなら、それで構わない。
アナタが名前を呼んでくれるなら、それでいい。
それだけで生きている気がするから。
朝がくる前に、名前を呼んでくれるだけでいい。
朝日とともに見えなくなるアナタだから、私の醜い闇も見られずにすむ。
輪郭すら見えない闇の中だから、アナタを感じることが出来ると解っているから。
せめて夜の間だけ、アナタをそばに感じたい。
目にすることが出来ない心に光などいらない。