廃想集 『カワセミ啼話』
だから、僕は君を手放したの?
わからない。
わかっているのは、翼は広げるためにあるってこと。
真っ白な羽根を広げたら、さぞかし美しいだろうなってこと。
真っ青な空は広大で、すべてを優しく包み込むのだろう。
僕の広げた両腕なんて、ちっぽけなものとは比べものにならないな。
だから、僕は君を手放したの?
わからない。
だけど、僕には……
僕の背中には、
真っ黒でボロボロな羽根が生えていて、
ヘドロで固まったまま、広げることすらできやしない。
気付いていたのに、見なかったふりをしてたんだ。
いいや、違うな……
自分じゃ見えない背中に都合よく甘えていたのかな?
鏡を見るのも正面だけにしていたし、窓に映る日はカーテンを閉めて、ショーウィンドウは見ないふり。
だから、僕は君を手放したの?
わからない。