廃想集 『カワセミ啼話』


だから、僕は君を手放したの?


わからない。


わかっているのは、翼は広げるためにあるってこと。

真っ白な羽根を広げたら、さぞかし美しいだろうなってこと。



真っ青な空は広大で、すべてを優しく包み込むのだろう。
僕の広げた両腕なんて、ちっぽけなものとは比べものにならないな。



だから、僕は君を手放したの?


わからない。




だけど、僕には……


僕の背中には、


真っ黒でボロボロな羽根が生えていて、


ヘドロで固まったまま、広げることすらできやしない。


気付いていたのに、見なかったふりをしてたんだ。


いいや、違うな……

自分じゃ見えない背中に都合よく甘えていたのかな?


鏡を見るのも正面だけにしていたし、窓に映る日はカーテンを閉めて、ショーウィンドウは見ないふり。




だから、僕は君を手放したの?


わからない。



< 35 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop