コーヒーの君へ
司には行きつけの店がある。
それはある喫茶店で、店に入ると感じのいい店主とコーヒーの良い香りが出迎えてくれる店だ。
どこか懐かしい雰囲気で学生が好んでくる、という感じではないが。

しかし司はそのコーヒーの香りにひとめぼれしたのだ。
以来暇さえあればこの喫茶店に来るようになった。

コーヒーは飲めない司であったが、このコーヒーならいけるのでは...?と思うほどに良い香りである。

まあ、結局飲めないのだけれど。

それでも毎回、ミルクやら砂糖やらを入れずに1口飲んでしまうのは、このコーヒーがいかに良質であるかを表しているように思う。

あまりにも頻繁に来るため、店主には「いつものかい」と言われる始末だ。

そうしてテーブルに置かれるのはコーヒー1杯にミルクと砂糖である。

心地よい空間で本を読んだり勉強したりと、かれこれ2時間ほど過ごすのだ。


ふとカップに口を付けると量が元に戻っていることに気が付く。

その不思議現象を店主に話すと、いつもの優しい笑みを返される。
そんなことが4回ほどあってふと気が付いた。

これは店主によるものだ、と。

我ながら自分の鈍さに呆れる。
そんな話をしても店主は優しく笑みを浮かべるのだ。
そうして、またおかわりを注ぐ。

この時間がずっと続けばいい、名残惜しい気持ちを抑えて、店を出る。

明日もまた来よう、そう決めて。



< 3 / 7 >

この作品をシェア

pagetop