コーヒーの君へ

「いらっしゃい」

店に入ると店主とコーヒーの香りに迎えられる。
いつも通り優しく微笑む店主に会釈をして、店内を見回した。

視線を巡らせると、右奥の席に彼は座っていた。
なるほど、これは気付くまい。

なぜなら司は普段、出入り口から様子の見えない左奥の入り組んだ席に座っている。
真逆もいい所だ。

自分のテーブルでコーヒーを注がれても気が付かない司が、真逆の彼を認識するはずがない。

とりあえず今日は、出入り口にほど近い、彼の姿がバッチリ見える席へと陣取る。

「おや、今日はいつもと違うんだねえ。」

気が付いた店主がにこやかに言う。

「はい、たまにはいいかなって。」

「うん、そういう日もあるよねえ。」

さほど気にする様子もなく、「いつものかい」と言いながらコーヒーの準備を始めた。

彼は...コーヒーを飲んでいるらしい。

それだけで様になるのだからすごい。

改めて見ると、彼はとても美しい。

スラリと細く長い脚を持つ、180cmは超えているであろう長身。

筋の通った鼻に気だるげな目、少し厚めの唇が同い年とは思えない色気を漂わせており、癖のある長めの黒髪は、彼のミステリアスな雰囲気をよく引き立たせていた。

7月に入った今、なぜこれまで彼の存在に気が付かなかったのか。

それが不思議なくらいには彼の容姿は人目を惹く。

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