eternity
~side 柳也~
夜と呼ぶには早いが空が暗くなる夕方と呼ばれる時間帯。

「まだ日が沈むのは早いんだな」

しばらくすると梨乃がやってきた。

「呼び出して悪かったな」

「うぅん、そんなことはないよ?」

いつもどおりの梨乃。

「で、大事な話って何かな?」

のほほんとした笑顔で聞いてくる。

果たして話して良いのか?

杏は笑顔でいてくれた。

「もう会えなくなるってわけじゃないんだから」と言って。

だけどこいつが杏と同じとは思えない。

きっと泣かれる。

ふと昔のことを思い出す。

こいつに親父のことを話し、大泣きさせた頃の日のことを。

やっぱりこいつには転校のことは言うべきじゃないかもしれない。

柚明には悪いがこいつには・・・、梨乃には言えない。

「ぅん?りっちゃん難しい顔してどうしたの?」

「いや、何でもない」

「で、大事な話って何かな?」

・・・言えない、こいつの悲しむ顔は見たくない。

「いや、梨乃ごめん、あれは嘘だ」

「え?嘘だったの?」

きょとんとした顔で聞き返してくる。

「あぁ、実はな柚明のやつと賭けをしてたんだよ。この時間帯に俺が梨乃を呼んだら来るかどうかってな」

相変わらず、俺は嘘が下手だな。

そう思わざるを得ない嘘だった。

だけど、こいつは嘘だと気づかない。

昔からそういう奴なんだ。

「賭けは俺の負けだ。今日はお前が待ちに待った小説、夏空の夢の最終巻の発売日。お前も学校が終わり次第速攻で帰ったわけだし、梨乃にとっては大事な日なのは俺も知っていたからさすがに俺が誘っても断ると思ってたんだ」


「賭けは俺の負けだ。だけど梨乃も大事な時間を割いて来てくれたわけだから今日は何でもおごってやるよ」

そう言うと梨乃は、

「りっちゃん、賭け事は良くないって何度言えばわかるの!」

すごくむっとした顔でそう言ってきた。

(おい、まさか何も言わないでさよならする気かよ)

柚明の声が聞こえたような気がした。

だって言えねえよ、言えるわけねえよ。

あいつはきっと泣く。

大泣きする。

そんなあいつに俺はなんて声をかければ良いんだよ!

(だけど、何も言わないでバイバイって方がよっぽど酷じゃねぇか?)

じゃあお前だったらどうするんだよ、柚明!

あいつが大泣きしてる傍で何も出来ない自分の不甲斐なさに打ちひしがれるのか?

それとももっと良い解決法があるって言うのか?

答えてみろよ、柚明!!

自分でも馬鹿なことを考えていると思う。

実際いない人の言葉を勝手に想像してそいつに勝手に文句を言うなんて。

・・・俺、馬鹿かもしれない。

だけどそうでもしなけりゃ耐えられねぇよ。

(惨めなことは悪いことか?格好悪い自分さらけ出すことは惨めか?何も言わないでバイバイされた後のこと考えたことあるのかよ?それこそ大泣きなんてレベルじゃないんじゃないのか)

俺が何も言わずに転校する。

梨乃はどう思うだろう?

あいつ馬鹿だから一言もかけなかったことに対して何て思うだろう?

関係ないからと思うかもしれない。

梨乃俺とは関係ないから何も言われなかったと。

梨乃の思考回路ならありえる。

あいつ、俺が関係ないと言うといっつも暗い顔してたから俺が転校した後もしばらく続くんだろうな。

いや、しばらくじゃなくずーと続くかもしれない。

それは・・・とめたい。

あいつの悲しむ顔はなるべくなら見たくないし考えたくもない。

それに、それじゃあ俺がまるで悪者みたいじゃないか。

俺は自称紳士だぞ?

(だったら言え、転校のこと)


・・
・・・

・・・わかったよ!

言えば良いんだろ、柚明!
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