eternity
「なあ梨乃、もしものな、もしもの話だからな?」
「ぅん?」
梨乃は鈍いからこう切り出せば気づかないだろう。
もしこれで泣き出すことがあれば冗談だよと言えばいい。
「もしも俺が遠くに転校するってなったらどうする?」
「ぅん?それも柚明君との賭けか何かかな?」
梨乃は未だに俺の嘘を信じている。
純粋すぎるのがこいつの欠点だったな。
「いや、これは賭けでもなんでもない」
「う~ん、きっと場所にもよると思うよ、どれくらい遠いのかな?外国とか?」
「いや、そこまで遠くない。ていうかお前、それは遠まわしに俺に外国へ消えてほしいと思ってるという意思表示か?」
「そ、そんなことないよ!」
本気で慌てる梨乃。
相変わらず冗談と本気の区別がつかない奴だな。
「そうだな・・・関西でどうだ?」
「関西かぁ~、遠いね」
「まぁ今は新幹線なる文明の利器があるからそんなに遠くはないけどな」
「ぅぅん、すっごく遠いよ。私そっちの方へは行ったことないもん」
うつむき少し暗い顔になる。
例え話だって言ってるのに・・・
「でもさ、海の外じゃないからそう考えれば近いと思うよな?」
「・・・私、京都とかって行ったことないんだよね、一度も。私・・・静岡より西に行ったことないんだよね・・・」
耳を澄まさなければ聞こえないくらいの声で梨乃が呟いた。
「梨乃?」
「りっちゃん!京都は綺麗なところかなぁ!」
そして突然梨乃が叫び出した。
なんでこのタイミングでって思った。
「京都には本当に縁結びの神社はあるのかな!?本当に金閣寺はきらきらなのかな!?本当に清水寺から見える景色は綺麗なのかな!!!本当に・・・本当に・・・」
そして梨乃は・・・泣き始めた。
理由がわからない。
これは例え話だ。
何でも信じる梨乃のことだから例え話でも泣いてしまう可能性だってないわけじゃないが、それでも今日の梨乃は少しおかしい・・・。
「りっちゃん・・・ごめん」
「何で謝るんだよ」
「知ってたの、りっちゃんが遠くに行くこと」
「え」
何だって?
梨乃が知ってた。
どうして?
「今日の放課後、杏に遠くに行くこと伝えたんだよね?」
「っ!!どうして・・・それを」
あの場所に梨乃がいた?
いや、それはない。
梨乃は学校が終わって速攻で本屋に行ったはずだ。
今日は梨乃が欲しがっていた本の発売日だ。
それを我慢してまで学校に残ることなんて梨乃には出来ない・・・はず。
今までだってあの本の発売日の日だけは例外なくわれ先にと1人で帰っていた。
その日に限りいくらい俺が一緒に帰ってやろうと誘っても断るくらいの徹底ぶり。
ましては今日はその本の最終巻の発売日だから学校に残るはずはない。
「聞いたの、杏から。りっちゃん、杏から全然信頼されてなかったよ?」
あははと笑う。
その笑い声はどこか儚げで。
「りっちゃんは私に大事なこと言わないかもしれないからって私に電話してきてくれた」
「りっちゃんは転校しちゃうって。りっちゃんは私にも転校のこと伝えるって言ってたけど、りっちゃんのことだから土壇場でへたれるかもしれないからって」
そう杏が言っていたと告げていた。
「あはは、りっちゃん、本当に杏の彼氏さん?全っ然信用されてなかったよ?」
泣きながらおどけて見せる。
人間、本当に泣きながら笑えるんだと思った。
「あはは、それとね、これは杏から絶対に内緒って言われてたけどね。杏は・・・、杏はね・・・泣いてたよ?電話越しでも聞こえるくらいはっきりと・・・」
「なんだって?」
何を言っているんだ、梨乃?
杏は笑っていたじゃないか?
あんなに淡白に俺に相づち打ってたじゃないか?
おかしいよ、嘘だよ、そんなこと。
「あぁ、やっぱりりっちゃん気づかなかったんだ」
気づかなかった?
だってあいつは笑ってたじゃないか。
「杏はすごいよ、やっぱり私とは違うね。私だったらりっちゃんが遠くへ行っちゃうって聞いたら絶対に泣き出しちゃうのに・・・。ねえりっちゃん、杏はどんな感じだった?」
「・・・笑ってた」
そう暗い顔や驚いた顔をしたのは最初だけだった。
後は終始笑顔だった。
「杏はやっぱりすごいよ。でもりっちゃんもりっちゃんでやっぱり鈍感なのかな?だって、彼氏さんがどこかへ行っちゃうのを悲しく思わない彼女さんなんていないでしょ?」
実際どうかは知らないが梨乃にとってのカレカノ理論ではそうなのだろう。
「りっちゃんだって、立場反対だったら悲しくない?」
確かに悲しいと思うかもしれないが、そんなに大泣きするかと聞かれば答えはNOかもしれない。
「りっちゃんはちゃ~んと愛されていたと思うよ。彼女さんに大泣きされるくらいにはね」
杏の奴いったいどんな気持ちで俺の話を聞いていたんだ?
あいつも泣きたいのを必死に我慢していたのか?
俺はそんなことも気づけなかったのか?
「ねぇりっちゃん、私がここで泣きながら行かないでって言ったらどうする?」
少し意地悪そうに俺を見つめる。
「どうするって・・・」
どうするもこうするも、もうどうすることも出来ない。
だが出来ればこいつらの泣いてる姿は見たくないし悲しむ姿も見たくない。
だけど・・・
「って、嘘だよ、冗談だよ」
「?」
あはは、と笑う。
未だに涙は枯れていない。
「だって、杏は遠くへ行くこと、OKしたんでしょ?彼女さんがそう言ったんだもん。せっかくの誠意を私が壊しちゃだめだよね?」
「・・・梨乃」
「ほらほら、何暗い顔してるの?もう会えないわけじゃないんだよね?」
「あぁ」
そうだよな、毎日というわけにはいかないけど。
「ちゃんと連絡とれるよね?」
「あぁ、当たり前だろ」
それを聞いてにゅふふ、と笑う梨乃。
「じゃあさよならじゃないよね?」
「あぁまた会える。さすがに毎日とか毎週とかいうわけには行かないけどな」
にゅふふと笑う梨乃に俺も笑ってやる。
その後しばらく俺達は他愛もないことを話しあった。
俺の転校先であり梨乃が一度も行ったことがないと言った京都のこと。
昔の話、今日の学校のこと、他愛もない日常のこと。
俺は梨乃に転校のこと伝えて良かったと思えた。
「ぅん?」
梨乃は鈍いからこう切り出せば気づかないだろう。
もしこれで泣き出すことがあれば冗談だよと言えばいい。
「もしも俺が遠くに転校するってなったらどうする?」
「ぅん?それも柚明君との賭けか何かかな?」
梨乃は未だに俺の嘘を信じている。
純粋すぎるのがこいつの欠点だったな。
「いや、これは賭けでもなんでもない」
「う~ん、きっと場所にもよると思うよ、どれくらい遠いのかな?外国とか?」
「いや、そこまで遠くない。ていうかお前、それは遠まわしに俺に外国へ消えてほしいと思ってるという意思表示か?」
「そ、そんなことないよ!」
本気で慌てる梨乃。
相変わらず冗談と本気の区別がつかない奴だな。
「そうだな・・・関西でどうだ?」
「関西かぁ~、遠いね」
「まぁ今は新幹線なる文明の利器があるからそんなに遠くはないけどな」
「ぅぅん、すっごく遠いよ。私そっちの方へは行ったことないもん」
うつむき少し暗い顔になる。
例え話だって言ってるのに・・・
「でもさ、海の外じゃないからそう考えれば近いと思うよな?」
「・・・私、京都とかって行ったことないんだよね、一度も。私・・・静岡より西に行ったことないんだよね・・・」
耳を澄まさなければ聞こえないくらいの声で梨乃が呟いた。
「梨乃?」
「りっちゃん!京都は綺麗なところかなぁ!」
そして突然梨乃が叫び出した。
なんでこのタイミングでって思った。
「京都には本当に縁結びの神社はあるのかな!?本当に金閣寺はきらきらなのかな!?本当に清水寺から見える景色は綺麗なのかな!!!本当に・・・本当に・・・」
そして梨乃は・・・泣き始めた。
理由がわからない。
これは例え話だ。
何でも信じる梨乃のことだから例え話でも泣いてしまう可能性だってないわけじゃないが、それでも今日の梨乃は少しおかしい・・・。
「りっちゃん・・・ごめん」
「何で謝るんだよ」
「知ってたの、りっちゃんが遠くに行くこと」
「え」
何だって?
梨乃が知ってた。
どうして?
「今日の放課後、杏に遠くに行くこと伝えたんだよね?」
「っ!!どうして・・・それを」
あの場所に梨乃がいた?
いや、それはない。
梨乃は学校が終わって速攻で本屋に行ったはずだ。
今日は梨乃が欲しがっていた本の発売日だ。
それを我慢してまで学校に残ることなんて梨乃には出来ない・・・はず。
今までだってあの本の発売日の日だけは例外なくわれ先にと1人で帰っていた。
その日に限りいくらい俺が一緒に帰ってやろうと誘っても断るくらいの徹底ぶり。
ましては今日はその本の最終巻の発売日だから学校に残るはずはない。
「聞いたの、杏から。りっちゃん、杏から全然信頼されてなかったよ?」
あははと笑う。
その笑い声はどこか儚げで。
「りっちゃんは私に大事なこと言わないかもしれないからって私に電話してきてくれた」
「りっちゃんは転校しちゃうって。りっちゃんは私にも転校のこと伝えるって言ってたけど、りっちゃんのことだから土壇場でへたれるかもしれないからって」
そう杏が言っていたと告げていた。
「あはは、りっちゃん、本当に杏の彼氏さん?全っ然信用されてなかったよ?」
泣きながらおどけて見せる。
人間、本当に泣きながら笑えるんだと思った。
「あはは、それとね、これは杏から絶対に内緒って言われてたけどね。杏は・・・、杏はね・・・泣いてたよ?電話越しでも聞こえるくらいはっきりと・・・」
「なんだって?」
何を言っているんだ、梨乃?
杏は笑っていたじゃないか?
あんなに淡白に俺に相づち打ってたじゃないか?
おかしいよ、嘘だよ、そんなこと。
「あぁ、やっぱりりっちゃん気づかなかったんだ」
気づかなかった?
だってあいつは笑ってたじゃないか。
「杏はすごいよ、やっぱり私とは違うね。私だったらりっちゃんが遠くへ行っちゃうって聞いたら絶対に泣き出しちゃうのに・・・。ねえりっちゃん、杏はどんな感じだった?」
「・・・笑ってた」
そう暗い顔や驚いた顔をしたのは最初だけだった。
後は終始笑顔だった。
「杏はやっぱりすごいよ。でもりっちゃんもりっちゃんでやっぱり鈍感なのかな?だって、彼氏さんがどこかへ行っちゃうのを悲しく思わない彼女さんなんていないでしょ?」
実際どうかは知らないが梨乃にとってのカレカノ理論ではそうなのだろう。
「りっちゃんだって、立場反対だったら悲しくない?」
確かに悲しいと思うかもしれないが、そんなに大泣きするかと聞かれば答えはNOかもしれない。
「りっちゃんはちゃ~んと愛されていたと思うよ。彼女さんに大泣きされるくらいにはね」
杏の奴いったいどんな気持ちで俺の話を聞いていたんだ?
あいつも泣きたいのを必死に我慢していたのか?
俺はそんなことも気づけなかったのか?
「ねぇりっちゃん、私がここで泣きながら行かないでって言ったらどうする?」
少し意地悪そうに俺を見つめる。
「どうするって・・・」
どうするもこうするも、もうどうすることも出来ない。
だが出来ればこいつらの泣いてる姿は見たくないし悲しむ姿も見たくない。
だけど・・・
「って、嘘だよ、冗談だよ」
「?」
あはは、と笑う。
未だに涙は枯れていない。
「だって、杏は遠くへ行くこと、OKしたんでしょ?彼女さんがそう言ったんだもん。せっかくの誠意を私が壊しちゃだめだよね?」
「・・・梨乃」
「ほらほら、何暗い顔してるの?もう会えないわけじゃないんだよね?」
「あぁ」
そうだよな、毎日というわけにはいかないけど。
「ちゃんと連絡とれるよね?」
「あぁ、当たり前だろ」
それを聞いてにゅふふ、と笑う梨乃。
「じゃあさよならじゃないよね?」
「あぁまた会える。さすがに毎日とか毎週とかいうわけには行かないけどな」
にゅふふと笑う梨乃に俺も笑ってやる。
その後しばらく俺達は他愛もないことを話しあった。
俺の転校先であり梨乃が一度も行ったことがないと言った京都のこと。
昔の話、今日の学校のこと、他愛もない日常のこと。
俺は梨乃に転校のこと伝えて良かったと思えた。