eternity
「柳也、大変だったんだろ?学校とかでは父親がいないってだけでいじめにあったりすると聞くけど柳也は?」
「いじめとかは・・・なかった」
いじめはなかった。
嫌がらせめいたこともなかった。
俺がやんちゃだったということもあったけど。
「母さんを捨て、柳也も捨て、母さんが大変な時に助けに行くこともしなかった。こんな僕を許してくれとは言わない。今日、柳也がわざわざこっちに来た理由も僕を批難するためだと思っていたよ」
「・・・」
その考えは否定はしない。
「恨みたいなら恨み続けてくれてかまわない。何で今さら?と思う気持ちはわかる。だけど、僕も考えたんだ。これからは僕を愛してくれた人の罪滅ぼしをしようと」
「・・・」
「小さかった柳也には何一つ理由を告げなかったから、僕が浮気でもしたと思われていたと思っていたよ。もしかしてそれさえ聞くのも嫌なほど嫌っていたのか?」
「・・・まぁそれもある」
親父の言いたいことはわかったが今でも信じるには信憑性に欠けすぎている。
親父が嘘をついている可能性だってある。
離婚しているんだから浮気にはならないと思うが、浮気をしててもおかしくない。
母さんが変わってしまってからものうのうと暮らしていたのかもしれない。
だから信じられない。
「まぁ、嫌われる理由はありすぎるからな。でも柳也に聞いておきたい。柳也はこっちで父さんと一緒に暮らさないか?」
「俺が断ったら一緒に暮らす話はなくなるのか?」
なくなるとは思えない。
「・・・柳也には悪いと思っているが、柳也にはその決断は出来ないと思っている。ずいぶんと卑怯な手だけどな」
「・・・!」
親父は俺が断ることが出来ないと思っているらしい。
理由としては俺が母さんのことを大事に思っているから、母さんのためなら選択の余地はないだろうと告げているようだった。
「選択の余地が無いような質問は卑怯だぞ!」
「卑怯で結構だよ」
ははは、と悲しそうに笑う。
「柳也は父さんのことを恨み続けても良い。むしろ恨んでくれ。
今までだって助けてあげるチャンスはあったんだ。
それを無視し続けてきた父さんを恨んでくれ。
それくらいのことをしてもらわなければ罪滅ぼしにはならない」
ずいぶんと自虐的なことを言うと思った。
「言っただろ、これは罪滅ぼしなんだって。
この罪滅ぼしにはな、母さんと、柳也、お前への罪滅ぼしでもあるんだ。
柳也にとって母さんが変わってしまったことがどれほどショックだったかは正直わからない。
そんな中僕はひたすらに仕事を選んだ、自己満足のためにな。
そんな僕を許してほしいとは思わない。
だけど僕は僕のした罪を償いたい」
「それが再婚の理由だ」
「柳也には綺麗ごとにしか聞こえないかな。
でも僕も知り合いから母さんの容態を聞かされ続けるうちに、
罪の意識が芽生えたのは事実なんだ。
僕は間違っていたのか?
これは強引だったのか?
そして、僕は僕が思っている以上に愛されていたのかってね」
「だから・・・だから柳也、お願いだ。僕に今一度だけチャンスをくれないか。もう一度だけ」
親父が俺に頭を下げた。
真剣に。
もう俺の知っている親父ではない。
親父はいつでも笑ってた。
当時はずいぶん癪に障る笑い方だと思っていたが。
「なんで俺にいちいち許可を求めるんだ?」
俺に選択肢はないと言いつつも俺の意見を聞く。
許さなくてもいいから同意してほしいと言う。
「俺なんて無視して母さんと仲良く暮らすことだって可能だろ?」
だったらなぜ?
「母さんは言ってなかったか?母さんの口癖みたいなものだったのになぁ。いや、もうあれからだいぶ時間が経ってしまったからな・・・」
何か言っていたか?
「家族とは父さんがいて、母さんがいて、そして息子がいる。誰も欠けてはいけない。それが母さんの口癖だった」
確かに昔は母さんからよく聞かされていた。
どんな時も、どこへ行くのにも母さんは親父と俺と一緒に出掛けようとしていた。
買い物、ちょっとした旅行、近所の散歩でさえ俺たちは誘われた。
それがうざいと思ったときも確かにあった。
俺が断ると寂しそうに「そう」と言うのだけれど、
その時は諦めるが次の機会があれば懲りずに俺を誘ってきた。
断った1時間後にはけろっとしてまたお出かけ行くんだけど?と聞いてきたこともたくさんあった、すごく楽しそうに。
すごく楽しそうに、
「りゅうや、母さんとお父さんと一緒にお買い物に行かない?今日はお菓子を買ってあげちゃうぞ」
と微笑みながら。
幼心にも、悲しそうにうつむく母さんを見たくなかったのでよく一緒について行った。
3人で出かけた時の父さんと母さんは楽しそうだった。
近所でも相当のばかっぷるで有名だったくらいだ。
近所の人たちにとっても俺たち3人一緒にいる光景はとても微笑ましい光景だったに違いない。
そうだった。
母さんは親父と、俺と一緒にいることを願っていた。
どちらも欠けてはいけない。
それが、親父が俺の許可を得ようとする理由か?
「俺の許可を得るのは母さんのためか?」
「それもある。いや、そっちがメインなんだが柳也のためでも僕のためでもある」
「親父のため?」
「そうだ家族は円満であればそれに越したことはない。
昔のようにみんな一緒にしょうもない話をしながら食事をしたい。
みんな一緒に、だ。
だけど柳也が僕を嫌っているなら僕の話なんて聞きたくないと思うんじゃないかな?」
「・・・まぁな」
俺は嫌いなやつのそばにいたいとは思わない。
「僕にはこのまま強引に母さんと寄りを戻すという方法もある。
だけど、もう強引に何かをすることはしたくない。
それで僕は大きな失敗をしたからな。
柳也が僕と一緒に暮らすことを嫌と思えばそれは行動に出てくるだろう。
例えば食事を一緒にとらない、みたいにね」
「・・・」
「それじゃ、ダメなんだ。
母さんが求めている理想の暮らしにはならない。
柳也、お前に母さんのと父さんの理想に付き合えという権利は僕にはない。
だけど認めてほしい。
母さんの理想のために出来る限りのことをしたい。
それには柳也の協力が絶対に必要なんだ。
柳也を利用するみたいで忍びない気持ちは確かにある。
だから無理強いはしない。
協力だって積極的に、とは言わない。
ただ、みんなで一緒に食事をしている席に座っていてくれる、
その程度でかまわない」
・・・親父は必死だった。
確かに俺の意見など聞かず強引に寄りを戻すことだって可能だったはずなのに、それはしたくないと言った。
親父の言ってることに矛盾はない・・・と思う。
母さんのための罪滅ぼし。
許す必要はないと言った。
チャンスをくれと。
一回だけチャンスをくれと。
だったら一度だけチャンスを与えてもいいのではないだろうか?
そう思えるようになった。
だから・・・
「一度だけ」
「え?」
親父は聞き返した。
「一度だけならチャンスがあっても良いと思う」
「本当か!」
決して許したわけじゃない。
そこまでお願いされて断るのは鬼畜だと思ったからだ。
「ただし、チャンスは一回だけだし、俺は俺のやりたい様にする。それでもいいと言うのならチャンスを与えてもいい」
しばしの沈黙の後、親父は一言。
「・・・ありがとう」
と言った。
・・・泣きながら。
「いじめとかは・・・なかった」
いじめはなかった。
嫌がらせめいたこともなかった。
俺がやんちゃだったということもあったけど。
「母さんを捨て、柳也も捨て、母さんが大変な時に助けに行くこともしなかった。こんな僕を許してくれとは言わない。今日、柳也がわざわざこっちに来た理由も僕を批難するためだと思っていたよ」
「・・・」
その考えは否定はしない。
「恨みたいなら恨み続けてくれてかまわない。何で今さら?と思う気持ちはわかる。だけど、僕も考えたんだ。これからは僕を愛してくれた人の罪滅ぼしをしようと」
「・・・」
「小さかった柳也には何一つ理由を告げなかったから、僕が浮気でもしたと思われていたと思っていたよ。もしかしてそれさえ聞くのも嫌なほど嫌っていたのか?」
「・・・まぁそれもある」
親父の言いたいことはわかったが今でも信じるには信憑性に欠けすぎている。
親父が嘘をついている可能性だってある。
離婚しているんだから浮気にはならないと思うが、浮気をしててもおかしくない。
母さんが変わってしまってからものうのうと暮らしていたのかもしれない。
だから信じられない。
「まぁ、嫌われる理由はありすぎるからな。でも柳也に聞いておきたい。柳也はこっちで父さんと一緒に暮らさないか?」
「俺が断ったら一緒に暮らす話はなくなるのか?」
なくなるとは思えない。
「・・・柳也には悪いと思っているが、柳也にはその決断は出来ないと思っている。ずいぶんと卑怯な手だけどな」
「・・・!」
親父は俺が断ることが出来ないと思っているらしい。
理由としては俺が母さんのことを大事に思っているから、母さんのためなら選択の余地はないだろうと告げているようだった。
「選択の余地が無いような質問は卑怯だぞ!」
「卑怯で結構だよ」
ははは、と悲しそうに笑う。
「柳也は父さんのことを恨み続けても良い。むしろ恨んでくれ。
今までだって助けてあげるチャンスはあったんだ。
それを無視し続けてきた父さんを恨んでくれ。
それくらいのことをしてもらわなければ罪滅ぼしにはならない」
ずいぶんと自虐的なことを言うと思った。
「言っただろ、これは罪滅ぼしなんだって。
この罪滅ぼしにはな、母さんと、柳也、お前への罪滅ぼしでもあるんだ。
柳也にとって母さんが変わってしまったことがどれほどショックだったかは正直わからない。
そんな中僕はひたすらに仕事を選んだ、自己満足のためにな。
そんな僕を許してほしいとは思わない。
だけど僕は僕のした罪を償いたい」
「それが再婚の理由だ」
「柳也には綺麗ごとにしか聞こえないかな。
でも僕も知り合いから母さんの容態を聞かされ続けるうちに、
罪の意識が芽生えたのは事実なんだ。
僕は間違っていたのか?
これは強引だったのか?
そして、僕は僕が思っている以上に愛されていたのかってね」
「だから・・・だから柳也、お願いだ。僕に今一度だけチャンスをくれないか。もう一度だけ」
親父が俺に頭を下げた。
真剣に。
もう俺の知っている親父ではない。
親父はいつでも笑ってた。
当時はずいぶん癪に障る笑い方だと思っていたが。
「なんで俺にいちいち許可を求めるんだ?」
俺に選択肢はないと言いつつも俺の意見を聞く。
許さなくてもいいから同意してほしいと言う。
「俺なんて無視して母さんと仲良く暮らすことだって可能だろ?」
だったらなぜ?
「母さんは言ってなかったか?母さんの口癖みたいなものだったのになぁ。いや、もうあれからだいぶ時間が経ってしまったからな・・・」
何か言っていたか?
「家族とは父さんがいて、母さんがいて、そして息子がいる。誰も欠けてはいけない。それが母さんの口癖だった」
確かに昔は母さんからよく聞かされていた。
どんな時も、どこへ行くのにも母さんは親父と俺と一緒に出掛けようとしていた。
買い物、ちょっとした旅行、近所の散歩でさえ俺たちは誘われた。
それがうざいと思ったときも確かにあった。
俺が断ると寂しそうに「そう」と言うのだけれど、
その時は諦めるが次の機会があれば懲りずに俺を誘ってきた。
断った1時間後にはけろっとしてまたお出かけ行くんだけど?と聞いてきたこともたくさんあった、すごく楽しそうに。
すごく楽しそうに、
「りゅうや、母さんとお父さんと一緒にお買い物に行かない?今日はお菓子を買ってあげちゃうぞ」
と微笑みながら。
幼心にも、悲しそうにうつむく母さんを見たくなかったのでよく一緒について行った。
3人で出かけた時の父さんと母さんは楽しそうだった。
近所でも相当のばかっぷるで有名だったくらいだ。
近所の人たちにとっても俺たち3人一緒にいる光景はとても微笑ましい光景だったに違いない。
そうだった。
母さんは親父と、俺と一緒にいることを願っていた。
どちらも欠けてはいけない。
それが、親父が俺の許可を得ようとする理由か?
「俺の許可を得るのは母さんのためか?」
「それもある。いや、そっちがメインなんだが柳也のためでも僕のためでもある」
「親父のため?」
「そうだ家族は円満であればそれに越したことはない。
昔のようにみんな一緒にしょうもない話をしながら食事をしたい。
みんな一緒に、だ。
だけど柳也が僕を嫌っているなら僕の話なんて聞きたくないと思うんじゃないかな?」
「・・・まぁな」
俺は嫌いなやつのそばにいたいとは思わない。
「僕にはこのまま強引に母さんと寄りを戻すという方法もある。
だけど、もう強引に何かをすることはしたくない。
それで僕は大きな失敗をしたからな。
柳也が僕と一緒に暮らすことを嫌と思えばそれは行動に出てくるだろう。
例えば食事を一緒にとらない、みたいにね」
「・・・」
「それじゃ、ダメなんだ。
母さんが求めている理想の暮らしにはならない。
柳也、お前に母さんのと父さんの理想に付き合えという権利は僕にはない。
だけど認めてほしい。
母さんの理想のために出来る限りのことをしたい。
それには柳也の協力が絶対に必要なんだ。
柳也を利用するみたいで忍びない気持ちは確かにある。
だから無理強いはしない。
協力だって積極的に、とは言わない。
ただ、みんなで一緒に食事をしている席に座っていてくれる、
その程度でかまわない」
・・・親父は必死だった。
確かに俺の意見など聞かず強引に寄りを戻すことだって可能だったはずなのに、それはしたくないと言った。
親父の言ってることに矛盾はない・・・と思う。
母さんのための罪滅ぼし。
許す必要はないと言った。
チャンスをくれと。
一回だけチャンスをくれと。
だったら一度だけチャンスを与えてもいいのではないだろうか?
そう思えるようになった。
だから・・・
「一度だけ」
「え?」
親父は聞き返した。
「一度だけならチャンスがあっても良いと思う」
「本当か!」
決して許したわけじゃない。
そこまでお願いされて断るのは鬼畜だと思ったからだ。
「ただし、チャンスは一回だけだし、俺は俺のやりたい様にする。それでもいいと言うのならチャンスを与えてもいい」
しばしの沈黙の後、親父は一言。
「・・・ありがとう」
と言った。
・・・泣きながら。