さよならのキスの代わりに

「そっか」


数秒時間が流れてようやく言えた言葉は、たったそれだけだった。


知ってた。

ほんとは、知ってた。


友達に言われて、分かってた。

先輩にも言われて、悟った。


それなのに。


先輩の口から直接言われることが、こんなにも辛いなんて、思いもしなかった。



「前に言ったかもしれないね。

俺の将来の夢のこと」



…うん、聞いた。


分かってた。


知ってた。


先輩の進もうとする道は、先輩の未来のためなんだと。


それなのに素直に背中を押してあげられないのは、

笑顔で見送ってあげられないのは、


行かないで と心が叫んでいるから。



弱い、弱い、私の心が


そばにいて と泣いているから。



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