さよならのキスの代わりに
「先輩、アイスご馳走さまでした」
私はすくっと立ち上がると笑ってみせた。
「マイ…あのね」
先輩が次の言葉を紡ぐ前に、私は言葉を続けた。
「ありがとうございました。
留学がんばってください」
先輩が描く未来はきっと鮮やかだ。
だからどうか、私なんかで汚してしまわないで。
「じゃあ、先輩、
さようなら」
最後は、とびっきりの笑顔で。
そうやって無理矢理にでも笑って、本当の気持ちは押しやって。
きっとそうすれば、先輩は笑って飛び立てる。
そう思っていたのに、先輩は目を見開いて慌てていた。
「さよならって、マイ、まさか!」
先輩は聡明な方だ。
無駄な言葉なんてなくても、私の気持ちを、意図を、分かってくれる。
私はそれ以上何も言わず、スクールバッグを肩にかけると早足で公園を去った。
早歩きから、徐々に速度が上がって、ついに走り出していた。
曲がり道をひとつ曲がり、公園が完全に見えなくなったところで、私はようやく足を止めた。
案の定、足が止まると涙腺が緩んだ。
…自分がきめたことだ。
先輩から離れると。
それなのに、どうしてこんなに
涙が溢れてとまらない?