さよならのキスの代わりに


先輩に会いたくて、

だけど会わせる顔がなくて、

だけど会いたくて。


迷いに迷って


悩み悩んで


結局その日の夜は眠れなかった。







はっと気づいたときには日付が変わっていて、時計は午前9時30分を指していた。


瞬間覚醒してベッドから飛び起きる。


もう、会わせる顔がないだとか、どんな顔をすればいいだとか、そんなことを悩んでるひまがない。


どんな顔もなにも、私の顔はひとつ、これだけだ。


なんてバカなことを考えると、ふっと体の力は抜けた。


それから大急ぎで顔を洗うと、ケータイと財布だけを持って家を飛び出した。


家から空港までは距離がある。


時間に間に合うかどうかなんてもう分からない。


私はもう自転車を全速力でこいだ。


どうか間に合えと、それだけを願って。


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