さよならのキスの代わりに
先輩に会いたくて、
だけど会わせる顔がなくて、
だけど会いたくて。
迷いに迷って
悩み悩んで
結局その日の夜は眠れなかった。
*
はっと気づいたときには日付が変わっていて、時計は午前9時30分を指していた。
瞬間覚醒してベッドから飛び起きる。
もう、会わせる顔がないだとか、どんな顔をすればいいだとか、そんなことを悩んでるひまがない。
どんな顔もなにも、私の顔はひとつ、これだけだ。
なんてバカなことを考えると、ふっと体の力は抜けた。
それから大急ぎで顔を洗うと、ケータイと財布だけを持って家を飛び出した。
家から空港までは距離がある。
時間に間に合うかどうかなんてもう分からない。
私はもう自転車を全速力でこいだ。
どうか間に合えと、それだけを願って。