さよならのキスの代わりに
先輩のことをいつも見ていたかった。
いつも一緒にいたかった。
だから、学校からの帰り道、いつも一緒に帰った。
いつも待ち合わせして。
先輩の声を聞いていたかった。
だから、毎日電話をかけた。
電話しないといけないほどの用事なんてないのに。
先輩はいつもやさしくて、穏やかで。
親にも似たその発言は、ときどき苦しくて、嫌になって、理不尽に反発した。
だけど先輩は怒らなかった。
ごめんと一言謝れば、いつだって頭を撫でて許してくれた。
いくつも先輩のやさしいところを思い出して、ようやく私は溺れていたんだと気づいた。
先輩のそのやさしさに、穏やかさに。
心地よくて、ずっとそこにいたくて。
駄々をこねたって、無くしたくなくて。
子どものようにすがりついていた。
足音を立てて少しずつ近づく、失う日の怖さを、心の底で感じながら。