さよならのキスの代わりに
初めて聞いた、先輩の言葉。想い。


「先輩、怒ってます…?」


「これが怒ってないように聞こえる?」


初めて見た、先輩の感情。怒り。


「なんだよ、さよならって」


先輩の声は決して大きくはないけれど、かすれていて、胸がぎゅっと締め付けられる。


「俺、マイと別れる気なんてないし、絶対別れたくないのに」


私は目を見開いた。


「でもっ、私!」


先輩の胸に押し付けていた顔をあげて、まっすぐにその目を見据える。


「あんなにワガママ言った!

絶対、先輩を苦しめてた!

だから良い機会だと思ったのに…!」


溢れてきた涙が滲んで、もうぐちゃぐちゃで。


もともと整っているわけではないけど、きっと普段とは比較にならないくらいには汚いだろう。


それでも先輩は真剣に聞いてくれていた。


「良い機会、ねえ」


先輩は溜め息と共に呟いた。



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