さよならのキスの代わりに
そして穏やかに、切なげに、言葉を紡ぐ。


「俺は今から海外に行くけど、マイのこと、信じてるから。

絶対、マイは他の男のところになんか行かないって、俺のとこにいてくれるって」


それから先輩の顔が近づいて、瞬間だけ唇が重なる。



「だから、俺のことも信じてて。


絶対、今よりずっとマイに相応しい男になって戻ってくるから。

待ってて」



その瞳はまっすぐで、いつもよりずっと自信に満ちた、先輩らしいものだった。


「せん、ぱい……」


そのとき、館内放送が響き渡った。


「俺、もう行かなきゃ」


先輩はぱっと手を離すと、荷物を持って「じゃあ、元気でね」と微笑んだ。


それから先輩はあたたかい微笑みだけ残すと搭乗口の方へと歩いていった。



「先輩!」



気がついたら叫んでいた。


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