さよならのキスの代わりに
「ねえ、マイ、あの噂、本当なの?」
「噂?」
「ユウ先輩が、留学するって」
それは、彼女である私ですら聞いたことがなかった、聞かされていなかった、先輩の話。
ドクンと心臓は大きく鼓動して、目を見開いた。
冷汗が止まらない。
立っている足の感覚すら忘れてしまいそうになるほどに。
「今月末に行くんでしょう?
マイ、何か聞いてないの?」
…きっと先輩が行く留学は、先輩の望む未来のための一歩なのだろうと直感的に思った。
いつか聞いたことがある、先輩の将来の夢に近づくための。
だけど、でも、それは私達が離れていくということで。
私はバカだから、先輩を追いかけることも、その夢を共に歩くなんてこともできないから。
先輩が、遠くなる。
先輩が、いなくなる。
その事実だけで、こんなにも苦しくて。
それに、どうしてなのか、考えても分からないことはあって。
『先輩は留学することを、どうして教えてくれなかったの』
だけど、この答えを聞くことさえ 怖いと思ってしまうんだ。