さよならのキスの代わりに
「おまたせ」
放課後、いつもの待ち合わせ。
先輩はいつもと同じ微笑みをくれた。
「帰ろっか」
先輩はわたしの手を取って歩きだした。
…今、つないでいる先輩の手の温度が。
温かくて柔らかいその温度が。
いつか冷たくなって、思い出せなくなってしまうのだろうか。
2人歩く夕焼けの道。
先輩は何も言わない。
それがずるくて、さみしくて、
だけど、言ってほしくもないから、複雑で。
先輩が何も言わないから、私も黙っていた。
たぶん、何か言ったなら、
きっと、私は泣いてしまう。