さよならのキスの代わりに


先輩は何も言っていない。


何も、何一つ、決定的なことは言っていない。


だけど。


『知ってたの?』


たったそれだけの言葉で分かってしまうから。



分かってしまったから。



私は先輩の問いかけに何か言うことも、首を振ることもしないで、ただ繋いだ手をぎゅっと握りしめていた。



「そっか」



繋いだ手に力を入れた私の反応を肯定だと捉えた先輩は、穏やかに呟いた。



「なんで言わなかったのかって、怒ってる?」



先輩は穏やかに問う。


…そんなこと、聞かなくても分かっているくせに。


言いたくて、言えなくて。


私はまた握る手に力を入れた。


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