さよならのキスの代わりに


「ごめんね」


先輩は穏やかな声で言う。


いつも、そうだ。


私が怒って、先輩がなだめる。


だけど、違う。


そういうことじゃない。


ごめんねって言ってほしかったわけじゃない。


言ってほしいのは、


私が聞きたいのは、



『違うよ』って、たった一言。



それだけなのに。



「まだ怒ってる」


先輩は困ったなと笑う。


…困ったのは、こっちの方だ。



「なんか甘いもの、おごろうか」


なにがいい?なんて聞いてくる。


「…いらない」


「まあまあ、そんなこと言わずに」


僕も食べたいから、付き合ってよ。


そう言って先輩はまた目を伏せて笑う。




…そんなに食べたいなら、一人で食べにいけばいいのに。


なんて、毒づいてしまう私は、きっと可愛くないな。




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