さよならのキスの代わりに
「はい」
先輩が手渡したのは、ソフトクリーム。
淡いピンクと白が半分ずつの、いちごとバニラのミックスだ。
「好きでしょ、いちご」
そう言って微笑んだ先輩のもう1つの手にはバニラのソフトクリーム。
先輩の好きな味だ。
「…ありがと」
「どういたしまして」
それから近くのベンチに座って、先輩は話をはじめた。
今日先生がこんなことをしただとか、クラスメイトがこんなことをしただとか、そういうどうでもいいような内容の。
…違う、違う。
そういうことを話してほしいんじゃない。
私は視線を下げていた。
「こっち、見てもくれないの?」
先輩はそう言った。
「だって、先輩が話してくれないから」
先輩がくれたアイスを一口食べる。
それは口の中で溶けて、残った甘さだけがくちを一杯にしていく。