さよならのキスの代わりに



「はい」


先輩が手渡したのは、ソフトクリーム。

淡いピンクと白が半分ずつの、いちごとバニラのミックスだ。


「好きでしょ、いちご」


そう言って微笑んだ先輩のもう1つの手にはバニラのソフトクリーム。

先輩の好きな味だ。


「…ありがと」

「どういたしまして」


それから近くのベンチに座って、先輩は話をはじめた。

今日先生がこんなことをしただとか、クラスメイトがこんなことをしただとか、そういうどうでもいいような内容の。



…違う、違う。


そういうことを話してほしいんじゃない。


私は視線を下げていた。



「こっち、見てもくれないの?」



先輩はそう言った。



「だって、先輩が話してくれないから」


先輩がくれたアイスを一口食べる。


それは口の中で溶けて、残った甘さだけがくちを一杯にしていく。



< 8 / 24 >

この作品をシェア

pagetop