さよならのキスの代わりに
「話してほしい?」
挑発的で穏やかな口調。
先輩らしい言い方。
きっと笑っているのだろうと思って視線を先輩に合わせたけど、私は目を見開いた。
先輩の瞳が、かなしい色をしていた。
不安で心が揺れた。
何か言おうとしていたのに、言葉が急に飛んでいった。
ただ、加速する鼓動の音がやけにはっきり聞こえた。
「マイが知っている通り、俺、留学するんだ」
瞬間、音が消えた。
世界から私たちだけが切り取られたような心地さえした。