さよならのキスの代わりに


「話してほしい?」


挑発的で穏やかな口調。

先輩らしい言い方。


きっと笑っているのだろうと思って視線を先輩に合わせたけど、私は目を見開いた。



先輩の瞳が、かなしい色をしていた。



不安で心が揺れた。


何か言おうとしていたのに、言葉が急に飛んでいった。


ただ、加速する鼓動の音がやけにはっきり聞こえた。






「マイが知っている通り、俺、留学するんだ」





瞬間、音が消えた。


世界から私たちだけが切り取られたような心地さえした。



< 9 / 24 >

この作品をシェア

pagetop