未熟女でも大人になっていいですか?
「蜜……」


痩せ細った小さな男が私の名前を呼んだ。



「何?保さん」


口の側に寄り添い耳を傾ける。

そうしないと声が聞こえない。

それくらい声も細った。



「……すまない」


小さな声が放った言葉は胸を刺した。

涙が零れ落ちそうなのを我慢して顔を見つめた。



「僕と一緒になって……君には後悔ばかりをさせた……」


(ううん!そんなことない!!)


必死で首を横に振る。

でも、それは声に出すと嗚咽になってしまう。


震えながら差し出された手を握った。

この手に抱かれ、愛された日々が懐かしい。



「……僕は………どんな後悔しても……君に言いたいことがある………」


押し出された声に交じって、呼吸が苦しくなる。

本来ならコールを押して、看護婦を呼ばなくてはならないのだけどーーー



「蜜と暮らせて………藤が生まれて……幸せだった………誰よりも……沢山…愛を…貰った………」



「保さんっ!!」


それは私も同じ。

あなたに出会ったあの日から、きっと同じだけの愛を貰ってる。

これから先もずっと、その愛を続けていきたい




ーーーーのに。




「ありがと……う……僕の……ハニ…………」




『に』の字を言ったまま口元が止まった。


そこから先は何も言い出さない。




「………保さん?」



呼吸をして……


声をかけて……



私はまだ………


さよならを聞いてない………



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