未熟女でも大人になっていいですか?
「先生がちっとも笑わないと送ったらかなりのショックを受けていたみたいで…」


反省しているように唇の端を噛み、立石君は言葉を続けた。


「『笑えるようになったら教えて欲しい』と熱心に頼み込まれました」


真っ直ぐと私を見る目が怖い。

その眼差しから逃れるよう目線を藤棚の方へと向けた。


「でも、先生は僕が在学中には笑ったことがなかった。高校を卒業してからもずっと接点の一つも無かったし、葛西とのメールも在学中に途絶えたから」


事件については何も知らなかったのだと分かりホッとする。

私の気持ちを知る由もないまま、立石君は葛西 潤に会った日のことを教えてくれた。



「葛西は元気そうにしていました。あいつ3年前に結婚したらしくて、奥さんと子供が1人いるそうです」


明るい口調が弾んでいるように聞こえた。


「そう。それは何よりね」


分かってはいるけれどそう答えた。

あの日、彼と彼の家族を見かけたことは誰にも口にしたくない事実だった。


「今度、同窓会をするんだと言ったらあいつ羨ましがって、『仙道先生は来るのか?』と問われました。僕が『欠席だ』と教えると残念そうにしていて、『あれから笑える様にはなったんだろうか?』と尋ねられました」


身動ぎもせずに話に聞き入る私を気にして、高島が奥から歩いて来る。

廊下の端で立ち止まり、黙って私達の会話に耳を傾けた。


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