未熟女でも大人になっていいですか?
「『卒業してから会ってないし分からない』と答えると『もしも、笑ってなかったら俺はどうすればいいんだろう』と真剣に悩んでいて、『葛西の気にするべきことじゃないだろう』と言うと『それもそうだな』と笑ってましたけど……」


その理由を聞かないで欲しい…と祈るような気持ちに陥った。

幸いにも立石君はその理由を確かめるでもなく、家に訪ねて来た経緯を説明した。


「琴吹たちと幹事をすることが決まって欠席者の近況を写真に収めようということになった時、『一番最初に仙道先生に会いに行こう』って話が出ました。

あの時と違って、『今は笑ってるかなぁ』って想像しながら此処へ来たんです」


卒業してからも教え子達は私のことを忘れずにいてくれた。

忘れたい、会いたくもない……と願った私よりも、遥かに皆の方が大人だ。


「此処へ来ながら、もしも先生が笑っていたら葛西に教えてやろうと思いました。転校してからもずっと葛西は先生のことを心配してたみたいだったし、言葉にはしてなかったけど、きっと先生のことが好きで憧れてたと思うから……」


高校時代、彼女のような錯覚を覚えさせてしまった相手。

私の態度は思春期の彼にとって、教師以上のものを見せてしまった。


その為に彼はあんな行動を起こした。

誰が悪い訳でもない。

責任は大いに私にある。


「…………」


黙ったまま立石君の言葉を耳にしていた。

後ろにいる人の視線を感じながら、何となく母にも見守られているような気がした。


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