未熟女でも大人になっていいですか?
その姿を目で追いながら高島の側へと近づいた。



「あの人が師匠?」


私の存在など忘れかけていた男は振り向いて、「あっ、そうだった」と声を上げた。


「棟梁!ちょっと下りて来られませんかー?」


振り向き様にまた怒鳴る。


「望さん、いいの!?呼んでも…」


明らかに相手は仕事中の筈だ。

私を紹介するのなんて後にでもできそうな気がする。



「待っとれ!今下りる!」


ハッキリと返事が届き、高島は私を振り返った。


「来れそうだぞ」


得意そうな顔をする。

その顔を眺め、声の主を見直した。


(あれ?もういない…)


さっきまでいた筈の場所は空になっている。

不思議なまでに身の軽い人物は、私達のいる処へ急ぎ足でやってきた。





「よぉ!元気そうだな!」


「棟梁こそ、お元気そうで安心しました」


手を握り合って喜んでいる。

こんなに嬉しそうな顔をする高島は出会って初めて見るかもしれない。



「相変わらず焼酎ばっか飲んでるんでしょう?」


「ワシの生き甲斐なんたから余計なことを言うな」


わはは…と笑い合う。

またしても私は忘れられている。

一体、いつ紹介されるのだ。



「…あっ、そうだ棟梁…」


蹴飛ばしかけた踵に気づいて高島の目が私を捕らえる。

少しだけ後ろへと下がり、私を前に押しやった。



「俺の嫁になる女、仙道 藤です」


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