悪戯な唇
梨花に言われて、彼との最初のキスを思い出しコクンと頷く。
「その人に気持ちがなかったら嫌悪感しか感じないでしょう。唇が近づくだけでも嫌よ。気のない相手にキスなんてしないわよ。美羽、篠川さんが好きなんでしょう。ちゃんと好きって言ったの?」
「……言った。彼…思わせぶりな言葉はたくさん言うのに肝心な言葉を言ってくれないから、私もなかなか言えなくて…さっき、勢いで告白したんだけどね。その後は、梨花に見られたとおりキスされておしまい」
「呆れた……あんな情熱的なキスをしていて今までお互い腹の探り合いしてたの?てか、いつからの関係よ?」
頷きながら
「春先のお花見から…」
「……いい大人がなにしてたんだか⁈焦ったすぎるわ。今日、一緒に帰るんでしょう…ちゃんと決めてきなさいよ」
「……なにを?」
「……そんなだからズルズル曖昧な関係なの。はっきりと向こうの気持ち聞き出して恋人になってらっしゃい」
ビシッと指先を差され、明日、報告しなさいよと…
お茶出しが終わり、自分のデスクに戻ると彼はいつもと変わらない様子で仕事をしていた。
あんなキスをして…
意味深な言葉を残して平然としている男が憎たらしい。