悪戯な唇
待ち合わせ場所も時間も決めてないのにどうするつもりなのかと気になって仕方ない。
気がつけば、アッという間に定時が過ぎようとしている。
隣がデスクの上を片付け始めたので、私も様子を伺いながら片付け始める。
横から視線を感じて顔だけを向けると、微笑んでいる男。
「美羽、帰ろう」
友達と帰るみたいに誘ってくるけど…
ここが、どこかわかってますか?
彼の言葉にまわりはこちらを気にしていないふうを装って気になっている様子がチラチラ見てくる視線でヒシヒシと伝わる。
それなのに…
「ほら…」
手を出し私の手を握ると平然と皆に笑いかけて
「お先です」
手を引かれ歩き出すから、私は頭だけ下げて小声で『お先に失礼します』と言うしかなかった。
あっ気にとられている皆の中で、訳知り顔の梨花だけが微笑んでいた。
「篠川さん…こんなことして明日からどうするつもりですか?」
「どうもしない。お互いフリーなんだし困るような仲じゃないだろう⁈」
「そうかもしれませんけど…つきあってもないのに…「好きでもない奴にあんなキスすると思ってるのか?‥それに美羽が俺を好きなら問題ない」