悪戯な唇
まわりが気づいていないことをいいことにぎゅっと握ぎった私の手をぐいっと引っ張り立ち上がる男。
と同時に自分も立ち上がっていた。
「なんで立つんですか?」
「ちょっと、来いよ」
はあっ?
訳のわからないままぐいっと引っ張られて、木が茂る場所まで歩いて行く。
酔っていても、頭の中で警報音が鳴っている。
やばい…
どんどん人けの無い場所まできて酔いも覚めてきた。
「私達2人がいなくなったら、みんな変に思いますよ。戻りましょうよ。てか、どこに行くんですか?」
無言の男に早口でまくしたて、戻ろうと促すのに一向に足を緩める気はないらしい。
「ここなら邪魔が入らないだろう⁈」
「なんのですか?」
1本の大きな桜の木の下にあるベンチに腰掛けた男に手を引っ張られ、そのまま男の膝の上にちょこんと座ってしまう。
えっ…
「す、すみません。すぐ、降りますね」
慌てふためく私の頭上からクスリと笑う音が聞こえた気がし、顔を上げた瞬間顎に手を添えてきた男の指に導かれるまま再び、唇を重ねてしまう。
「……あんっ……だぁめ…んっ……」
男の指が顎から頬に、そして両手が頬を挟む。