悪戯な唇
キス×キス
隣の男は今日もいつもと変わらない様子で、デスクワークをこなしている。
親睦会というお花見からすでに2週間が過ぎようとしているのに、いつまでもあの時のキスが忘れられないのは私だけのようだ。
隣に座る男の唇が触れた時の感触を思い出し、無意識に触ってしまう自分の唇は不完全燃焼のまま引きずっている。
あれは、お互い酔っていて事故のようなものだと自分自身に言い聞かせても、ただの同僚だった男を異性として意識してしまい、仕事がはかどらない。
今も、動く気配にドキッとして身体が強張る。
集中しなくっちゃと思うのに……
隣が見えないように資料の山を作り壁を作っていても、気配に敏感に反応してしまう。
別に意識しているわけじゃないと言い訳しても、意識しているのが見え見えでも、彼のように平静をよそえないのだから仕方ない。
その資料が、突然、2人の間にバサバサと落ちてしまった。
あっ…
慌ててしゃがみ込み散らばった資料の束を拾い始める。
視線の先は、男の黒い革靴…
それが、動いた。
ドキッとして意識してしまう。
「大丈夫?…手伝うよ」
しゃがんだ男は妖しく微笑んだ。