ベタ恋!〜恋の王道、ご教授願います〜
今日もみつからないってことは、今後も見つからないのか。

噂では東京の古本屋から1冊見つけた、なんていう話があったけれど、ネットの情報だからあてにならないだろうし。

某大型通販サイトの本のコーナーにも置いてないということはやっぱり見つからないのか。

どうしても読んでみたかった。主人公と恋する男子との恋愛模様が。

わたしもあんなまぶしい恋愛ができたら、幸せなんだけどな。

そう思いながらも、一縷の望みを残しつつ、本屋をめぐるのは休日の日課になってしまった。

友達との予定のない休日の夜は撮りためたテレビ番組をみながらひとりお酒を傾けながらつまみを食べる習慣もついてしまったけれど。

平日の朝は8時出社だけど、家から近いこともあってギリギリまで布団で過ごしてからささっとご飯を食べて支度をする。

会社では制服が支給されているので、私服で出勤するけれど、たいていがシャツとデニムパンツとスポーツシューズにトートバッグといったラフな格好だ。

会社へおしゃれなんかしたって誰にみせるでもないし、この格好のほうがラクでちょうどよかった。

まだ寒さが残るからこのスタイルにコートを合わせておけば見栄えも悪くないだろうからコートを羽織って出社する。

工場の敷地内に併設されている事務所のビルは5階建て。1階は応接室と更衣室、わたしが所属する総務課は2階にあたる。

更衣室に向かい、いろんな課の人たちのいる中で着替えをはじめる。

平凡なわたしにぴったりな仕事だな、と思いながら肩にかかる髪の毛を一つにしばり、今日も黒いベストに白いワイシャツ、ベストと同じ黒のタイトスカートに身を包み、仕事モードに頭を切り替える。

女子更衣室から出てきたところで後ろからかわいい声がした。
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