ベタ恋!〜恋の王道、ご教授願います〜
良薬と毒。
「マニュアル、大崎課長へ渡しました」

総務に戻るとひとまず牧田先輩のもとへ寄り、マニュアルを渡したことを報告した。

「ありがとう。あとは向こうの返事だけだし。お疲れ様」

「はい。失礼します」

自分の席に戻ろうとしたとき、牧田先輩が声をかけた。

「星野さん、どうかした? さっきからおかしいけど」

「……そ、そうですか」

「さっきからずっと私をみないでキョロキョロしてるから」

「す、すみません」

「私そういうの気になるタイプだから。何かあったら相談して」

「……は、はい」

相談も何もさすがに恋の相談相手に似ているひとが同じ社内にいるんだけどどうしたらいいですか、なんて言えるわけはない。

牧田先輩に軽くおじぎをして自分の席に着く。

椅子に座り、仕事をはじめようとしていたところでちょうど桐島課長と目があった。

桐島課長は心配そうに眉間にしわを寄せている。

安心させようと必死にぎこちなく笑ってみせると、桐島課長はわかったようですぐにわたしから視線を遠ざけた。

総務の自分の机について仕事をするけれど、工場棟で出会った二階堂星彦さんのことで頭がいっぱいになった。

わたしを見かけた瞬間、まるでわたしを射て落とそうとするような雰囲気だった。

接するときの距離感が近かったのが二階堂月彦さんとは違っていたけれど。

午後の仕事は忙しくなく、午前の引き続きの仕事をこなすのみだったので定時をすぎて帰ることができた。

会社から出るときに二階堂さんにメールをだす。

もしかしてウチの会社に来ませんでしたか? と。

返事は自分のマンションについたときにきた。

僕はそのとき、出版社のひとと打ち合わせをしている。
第一、どうして星野さんの会社まで乗り込んでいかないといけないんでしょうか。

もっともな回答とともにさらにもやもやが増えた気がした。
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