ベタ恋!〜恋の王道、ご教授願います〜
自分の席につき、穏やかな気持ちで仕事をしはじめた。

マニュアル作成がひと段落つくと、備品の在庫チェックだったり各部署への資料作成ぐらいで、マニュアル作りでてんてこまいだった雰囲気ががらりとゆるやかな空気と変わり、総務の人たちの顔つきも厳しそうだったものが、普段目にするようなのんびりとした顔つきへと戻っていた。

もう少しで昼休みが近づく頃だった。

総務の入り口に見慣れたクリーム色の作業着姿の男性が現れた。

キョロキョロと誰かを探している。

染谷さんがわたしへアイコンタクトをしてきた。

左手には生産機械設備課に持って行ったマニュアルを持っている。

思わず立ち上がると、

「あ、いたいた。星野さ~ん!」

と、無邪気に手を振る星彦さんの姿があった。

しぶしぶ席を離れ、星彦さんに近づく。

星彦さんはわたしを見るや否や屈託のない笑みを浮かべていた。

「大崎課長からおつかいに来ました」

と、マニュアルを渡してきた。

「ありがとう。わたしがいけばいいだけの話なのに」

「へえー。ここが総務なんですね~。こっちで働けばよかったな~」

わたしの話にも耳を貸さずにキョロキョロと総務の部屋を見渡していると、

「二階堂くん」

すっと、わたしの右隣に桐島課長がやってきた。

「桐島課長、お邪魔してます」

「大崎から何の用?」

桐島課長は珍しく苛立っているのか、声が若干低めだった。

「マニュアルの再校正をお願いしたいそうで。直すのは書いてあります、とのことでした」

「ありがとう。もう戻っていいよ」

「失礼します。それじゃ、またね、星野さん」

そういうと、わたしにだけ手を振り、星彦さんはさっさと部屋から出ていった。
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