ベタ恋!〜恋の王道、ご教授願います〜
堅物課長とわたしの恋愛攻略。
制服に着替えをすませると、自分が会社の人間に変身したみたいな気持ちになる。

ここではわたしは会社のひとりの人間。

与えられた仕事をしっかりこなして、それなりの評価をもらって対価をもらう。

それ以上のことは望まないはずで仕事をしてきたのに。

「おはようございます」

普段通りに総務課のドアを開けて中へ入る。

「おはようございます」

他のおじさん社員に紛れ込むように、オールバックにメガネ姿の桐島課長が席に座って挨拶をかわしてくれた。

「お、おはようございますっ」

わたしを見るや軽くクスッと笑って読みかけの資料に目を落としていた。

朝からしかも月曜から調子が狂いそうだ。

「星野センパーイ、おはようございます! なんで先にいっちゃうんですかー」

気づけば染谷さんが後を追うようにやってきていた。

別の染谷さんと一緒に課にくることが日課ではないんだけどなあ、と思いながら、ごめんね、とつぶやいて席に座った。

就業時間になり、リーダーの牧田先輩から指示があり、チェックされた事項に目を通し、前回のものと今回のものの型番を修正することになった。

ちょうどわたしの座る位置がパソコン画面の左側に桐島課長の席が配置されているので、どうしても桐島課長の姿が無意識のうちに目に入る。

気づけば桐島課長の目線と合致してしまうし。

「どうしたんですかー。ぼーっとしてますけど」

染谷さんがチェックした書類を持ってやってきた。

「あ、チェックしたのね。ありがとう」

「どうしたんですかねー。おかしいですよ。星野センパイ」

「星野さん、どうかしたの?」

牧田先輩がわたしに話しかけた。

「い、いえ。別に」

「体調悪いなら無理しなくていいから。これ、私がやっておく」

「あ、牧田先輩、す、すみません」

と、わたしの手元からチェックした書類を奪うように牧田先輩はとってさっさと仕事に取り掛かっていた。
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