ベタ恋!〜恋の王道、ご教授願います〜
「おはようございます」

染谷さんが先に総務課へ入り、わたしも続いた。桐島課長はすでに机の前にいて、どこからかの電話にでていた。

マニュアル作成の準備をしているところで牧田先輩がやってきて軽くあいさつをかわし、牧田先輩も同じく準備をはじめていた。

7月に近づくにつれ、新しく加わった型式が工場からこちらへ伝えられる。

既存の型式の番号をかえたり、型式の間に挿入したりして総務の通常の仕事と並行で行われていた。

昼休みになり、みんなが昼を食べに食堂へ向かう階段をあがるところで牧田先輩と一緒だった。

「金曜日、参加ありがとうございました」

「いいよ、別に。あのお店、一度いってみたかったし。おいしかったよ」

「ありがとうございました」

わたしがそういうと、牧田先輩はコホンと咳払いをした。

「そういえばさ、あのあと、課長と一緒だったみたいだけど」

「え、そうですか?」

「雨降ってたから雨宿りでコンビニに入ったとき、課長と星野さんが一緒だったみたいだから」

あの相合傘をしてるところをみられた、ってことか。

まずいなあ、詮索されるんだろうか。

「まさか、課長のこと」

牧田先輩の冷たい質問にわたしは生唾を飲み込んだ。

「……やだなあ。牧田先輩、なにいってるんですか」

そういって笑ってごまかした。

こうやって平然とした態度をとれるのは社会人スキルがあがってることで穏便にすませられるからいいけれど、それがかえって桐島課長を傷つける行為だったりもして気持ちが複雑だった。

「そうよね。あのひとがそんなことするわけないもんね」

クスクスと牧田先輩が珍しく笑っている。

「星野さん、気をつけなさい。課長、思っている以上に最低だから」

「最低?」

食堂の階に到着すると、わたしの質問には答えず、牧田先輩はガラスケースに乗った定食ふたつを見比べていた。
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